過去のセミナー

<12/2022>
Date
12月5日(月) 13:30-
Speaker
福井 毅勇(東京大学大学院工学系研究科)
Title
Kitaevスピン液体実現可能性の汎関数繰り込み群による研究

ハニカム格子上に定義された Kitaev 模型 [1] は、量子スピン液体状態が基底状態とし て厳密に求まることや、その分数励起のトポロジカル量子計算への応用可能性などから、 理論と実験の双方から精力的な研究がなされてきた。その候補物質としては、Na2IrO3 や α-Li2IrO3、α-RuCl3 などが代表的であるが、これらの候補物質では、Heisenberg 項などの 非 Kitaev 相互作用が不可避的に現れてしまう。固体材料以外の Kitaev 模型の実現の舞台 として代表的なものの一つに冷却極性分子系があり、特に、2013 年にマイクロ波を用い た、Kitaev 型相互作用を含む多彩なスピン模型の実装法が提案された [2]。しかしながら、 これらの実装には分子間の双極子相互作用に由来する(準)長距離相互作用が現れ、この 実装法のもとで Kitaev スピン液体が真に実現するかは検証されてこなかった。我々は、長 距離相互作用も取り扱うことができる量子スピン系の計算手法である PFFRG 法 [3] を用 いて、提案された模型の基底状態を調べた。結果として、異方性に依らずに、基底状態は 磁気秩序状態となってしまうこと、また、等方的な結合の場合に最もスピン液体実現に近 いことを解明した。また、相互作用の到達範囲を変化させた計算により、Kitaev 量子スピ ン液体がこのような長距離相互作用に対して脆いことも明らかにした [4]。セミナー当日 は、結果の詳細と我々が用いた PFFRG 法の概要、時間があれば同様の手法を用いてスピ ン S の候補物質でのスピン液体実現可能性を議論した結果 [5] や最近の進展を紹介する。

[1] A. Kitaev, Ann. Phys. 321, 2 (2006).

[2] S. R. Manmana et al., Phys. Rev. B 87, 081106 (2013).

[3] A. V. Gorshkov, K. R. A. Hazzard, and A. M. Rey, Mol. Phys. 111, 1908 (2013).

[4] KF et al., Phys. Rev. B 106, 014419 (2022).

[5] KF et al., Phys. Rev. B 106, 174416 (2022).


<11/2022>
Date
11月4日(金) 15:30-
Speaker
山田 昌彦(学習院大学 さきがけ専任研究員)
Title
行列積くりこみ群:万能量子多体系ソルバーへの道

密度行列くりこみ群(DMRG)が今まで一次元量子多体系に対するテンソルネットワークアルゴリズムとして開発されてきたが、今回我々は新たな連続テンソルネットワークアルゴリズムとして行列積くりこみ群(MPRG)を提案する。MPRGはDMRGより万能量子多体系ソルバーであるという点で優れており、絶対零度だけでなく有限温度にも対応し、高次元に拡張でき、開放量子系にも適用できるという著しい利点がある。特に、我々は典型的な開放量子系として非エルミート量子系を考え、DMRGにおいて変分原理が破綻する場合についても適用可能であることを証明する。デモンストレーションとして、一次元のYang-Leeエッジ特異性に対するベンチマーク結果について発表する。


<9/2022>
Date
9月26日(月) 13:30-
Speaker
関野 裕太(理化学研究所 開拓研究本部/数理創造プログラム)
Title
Optical spin conductivity in ultracold atomic gases

In solid-state physics, measurement of optical conductivity, which is conductivity of an alternating electric current obtained in an optical way, plays crucial roles to understand various exotic electron systems such as high-Tc superconductors, non-Fermi liquids, and Dirac electrons[1,2,3]. Similarly, conductivity of an alternating spin current (optical spin conductivity) is expected to be a useful probe to investigate various quantum many-body systems from spin degrees of freedom.

In this presentation, we report our proposal to measure the optical spin conductivity of ultracold atomic gases[4]. To demonstrate what information the frequency dependence of the spin conductivity can capture, we then present our theoretical results of the optical spin conductivity in several cold-atomic systems; a spin-1/2 s-wave Fermi superfluid, spin-1 Bose Einstein condensate, Tomonaga-Luttinger liquid, and topological Fermi superfluid[4,5]. In these systems, nontrivial spin excitations result in the frequency dependence of the spin conductivity quite different from that of the conventional Drude conductivity.

[1] C. C. Homes et al., Phys. Rev. Lett. 71, 1645 (1993).

[2] Y. S. Lee et al., Phys. Rev. B 66, 041104(R) (2002).

[3]R. R. Nair et al, Science 320, 1308 (2008); K. F. Mak et al., Phys. Rev. Lett. 101, 196405 (2008).

[4]Y. Sekino, H. Tajima, and S. Uchino, arXiv:2103.02418.

[5]H. Tajima, Y. Sekino, and S. Uchino, Phys. Rev. B 105, 064508 (2022).


<7/2022>
Date
7月22日(金) 15:10-16:40
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Speaker
室谷 悠太(東京大学物性研究所)
Title
マルチバンド超伝導体の集団励起による非線形テラヘルツ応答の理論

超伝導秩序は複素数の秩序変数によって表される。秩序変数の揺らぎは微視的にはクーパー対の集団運動に相当し、特に振幅の固有振動はヒッグス粒子とのアナロジーからヒッグスモードと呼ばれている。ヒッグスモードのエネルギーは典型的にmeVオーダーであり、また光と非線形に相互作用するため、テラヘルツ周波数帯で第三高調波発生などの非線形光学応答を示すことが実験・理論の両面から明らかになった[1]。一方、複数のバンドが超伝導に寄与するマルチバンド超伝導体では、各バンドが持つ秩序変数の相対位相が新たな自由度となり、その固有振動としてレゲットモードが生じる。レゲットモードの存在はラマン分光によって確かめられているものの、テラヘルツ帯の非線形光学応答にどのように現れるかは分かっていなかった。 この問題において興味が持たれるのは、試料に不可避的に存在する不純物の役割である。直感に反し、不純物散乱はヒッグスモードによる光学応答を著しく増強することが理論的に示された。そのような増強効果が振幅自由度だけでなく位相自由度にも作用するかどうかは興味深い問題である。

我々はBCS理論に基づいてマルチバンド超伝導体の非線形光学応答を調べ、レゲットモードが共鳴的な第三高調波発生を起こすことを初めて示した[2]。一方で不純物散乱の効果を取り込むと、ヒッグスモードの応答は増強されるのに対して、レゲットモードの応答は変化しないことが分かった[3]。これはレゲットモードを励起するのに必要な粒子-正孔対称性の破れに不純物が寄与しないためであると考えられる。また、この理論とグリーン関数法を組み合わせることにより、集団励起の存在下で過渡吸収スペクトルを計算する簡便な手法を構築した。

[1]R. Shimano and N. Tsuji, Annu. Rev. Condens. Matter Phys. 11, 103 (2020).

[2]Y. Murotani, N. Tsuji, and H. Aoki, Phys. Rev. B 95, 104503 (2017).

[3]Y. Murotani and R. Shimano, Phys. Rev. B 99, 224510 (2019).


<5/2022>
Date
5月19日(木) 15:10-
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Speaker
大久保 毅(東京大学 大学院理学系研究科)
Title
テンソルネットワークの実空間繰り込みによる縮約とその高効率化

近年、様々な物理現象を小さいテンソルのつながり、テンソルネットワークで表現して解析するテンソルネットワーク法が、発展してきている。行列積状態やテンソル積状態に代表されるテンソルネットワークで表現される試行関数を基にした、量子多体問題に対する変分法のアプローチでは、符号問題のために量子モンテカルロ法の適用が困難な場合でも、高精度な解析が可能になる。また、古典統計力学模型や量子多体系の分配関数をテンソルネットワークで表現することで、実空間繰り込みに基づく効率的な近似を可能とし、非常に大きな系の解析を行うこともできる。

セミナーでは、この様なテンソルネットワーク法の重要な応用例として、テンソルネットワークの縮約計算に用いられる、テンソル繰り込み群[1]を紹介し、それを用いた臨界現象の解析について説明する。その後、近年我々が提案した、異方的なテンソル繰り込み群[2]により、高次元テンソルネットワークの縮約に必要な計算量が大幅に減少することを議論する。また、テンソルネットワークに現れるボンドの“重み“を適切に考慮する、ボンド重み付きテンソルくり込み群[3]により、計算コストを増やさずに近似精度が大幅に向上するだけでなく、その背景に、繰り込み変換に対する不変性が隠れていることにも触れる予定である。

[1]M. Levin and C. P. Nave, Phys. Rev. Lett. 99, 120601 (2007).

[2] D. Adachi, T. Okubo, and S. Todo, Phys. Rev. B 102, 054432 (2020).

[3] D. Adachi, T. Okubo, and S. Todo, Phys. Rev. B 105, L060402 (2022).


<1/2022>
Date
1月11日(火) 13:30-
Place
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Speaker
渡邉 光(理化学研究所 創発物性科学研究センター)
Title
磁気的パリティの破れがもたらす物性応答

いくつかの磁性体においては結晶の副格子自由度を生かすことにより、磁性転移に伴うパリティ対称性(空間反転対称性)の自発的破れがみられる。このとき、時間反転対称性も併せて破れるため、これは「磁気的なパリティの破れ」として従来的な結晶構造に由来するタイプのパリティの破れと区別される。磁気的なパリティの破れは、例えば真空中ではみられない電気・磁気結合をもたらすため、二次高調波発生や光学二色性などの光学応答、複数の秩序が強調して現れるマルチフェロイック系を題材に多くの研究がなされてきた[1]。

我々はこれら二つのタイプのパリティの破れがもたらす物性応答に着目し、その定性的な違いの解明に向けた理論的研究を進めてきた。種々のパリティの破れによって対称性の低下がもたらされる一方で、保持されたままの対称性も存在する。パリティの破れた系において「保持された対称性」は電子構造や交差応答の分類において強力な役割を果たし、新奇な応答の探索において有用である。特に磁気的なパリティの破れがもたらす新奇応答に焦点を当て、我々の理論について紹介する[2]。余裕があれば、最近発表したパリティの破れた超伝導体に特有な光学応答についても紹介したい[3]。

[1] 例えば、Y. Tokura, S. Seki, & N. Nagaosa, Rep. Prog. Phys. 77, 076501 (2014).

[2] HW & Y. Yanase, Phys. Rev. B 96, 064432 (2017).

[3] HW, A. Daido, & Y. Yanase, arXiv:2109.14866.