過去のセミナー

<10/2021>
Date
10月18日(月) 15:00-
Place
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Speaker
吉田 博信(東京大学 理学系研究科)
Title
拡張SU(\(N\))ハバード模型における一般化\(\eta\)-ペアリング状態

強く相互作用する固体中の電子の問題は、強磁性や超伝導などの現象の微視的な理解に不可欠である。その中でも、ハバード模型は最も簡単化された模型として広く研究が行われてきた。この模型の厳密な固有状態として、\(\eta\)-ペアリング状態が知られている [1]。この状態は基底状態ではないものの、2粒子の非対角長距離秩序を持つことから、超伝導・超流動の文脈で現在でも活発に議論されている。

一方、\(N\) (\( > 2\)) 成分の自由度を持ち、SU(\(N\))対称性を持つフェルミオン系が光格子中の冷却原子気体を用いて実現されている [2]。このような系はSU(\(N\))ハバード模型によって記述される。ここで自然な疑問として、\(\eta\)-ペアリング状態のSU(\(N\))ハバード模型への一般化が考えられる。

我々は、1次元格子上の\(N\)成分フェルミオン系にて\(\eta\)-ペアリング状態の一般化を考え、この状態は拡張されたSU(\(N\))ハバード模型の厳密な固有状態であることを示した [3]。またこの状態は、\(N\)が偶数(奇数)の場合にはバルク(エッジ)に\(N\)粒子の非対角長距離秩序があることを明らかにした。さらに、ハミルトニアンに新たな項を加えることでこの状態のみが基底状態になるような模型を構築した。

[1] C. N. Yang, Phys. Rev. Lett. 63, 2144 (1989).

[2] S. Taie, R. Yamazaki, S. Sugawa, and Y. Takahashi, Nat. Phys. 8, 825 (2012).

[3] Hironobu Yoshida, Hosho Katsura, "Exact eigenstates of extended SU(\(N\)) Hubbard models: generalizations of \(\eta\)-pairing states with \(N\)-particle off-diagonal long-range order", arXiv:2109.07010


<8/2021>
Date
8月20日(金) 13:30-
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Speaker
下川 統久朗(沖縄科学技術大学院大学)
Title
Quantum spin solver near saturation -QS3- and its application to spin nematic study

厳密対角化法はハミルトニアンの固有値と固有ベクトルを近似なしに求めることが出来る強力な数値計算手法である。

しかしこの手法では系のサイズに従って指数関数的に増大する自由度を取り扱うことになるため、あまり大きな有限系を取り扱うことが出来ないという大きな欠点がある。例えば\(S=1/2\)量子スピン系では最新の大型計算機の能力を最大限に活用したとしても高々40~50サイト程度の系でしか計算を実行出来ない。一方で最近我々が\(S=1/2\) XXZ型スピン模型用に開発した厳密対角化ソルバー-Quantum spin solver near saturation (QS3)- [1]では系の並進対称性や\(U(1)\)対称性を用いてハミルトニアン行列を分割するなどの工夫をこらすことで、飽和磁場近傍に限定されるものの数百サイト以上の系を取り扱うことが可能となった。本セミナーではこの量子スピンソルバーQS3の特徴やベンチマーク結果などを紹介するつもりである。また我々は最近このQS3を用いてスピンネマティック状態の研究を行なっている。スピンネマティック状態はベクトル的な秩序を持たないがスピン空間の回転対称性が破れた状態であり、例えばリング交換相互作用がある正方格子模型[2]での実現が期待されているものの、先行研究[2]では36サイトまでの厳密対角化計算しか行われておらず、スピンネマティック状態の実現可能性には議論の余地が残されていた。我々はQS3を用いることで100サイト以上の有限系を厳密に取り扱った上で量子スピンネマティック状態の実現を確認することに成功した[3]。講演では共同研究者のiDMRG法による数値計算結果とも比較しつつQS3での計算結果の詳細を話す予定である。

[1] H. Ueda, S. Yunoki, T. S., arXiv: 2107.00872. (see also https://github.com/QS-Cube/ED)

[2] N. Shannon, T. Momoi, and P. Sindzingre, Phys. Rev. Lett, 96 027213 (2006).

[3] M. Gohlke, T. S. and N. Shannon, in preparation.


<7/2021>
Date
7月29日(木) 10:30-
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Speaker
瀧川 大地(大阪大学大学院 基礎工学研究科)
Title
キタエフ・カイラル・スピン液体における無散逸スピン流生成機構

キタエフモデルは蜂の巣格子各サイトに局在したスピンに対して異なるボンド方向に対応した強い異方的交換相互作用が働くスピン系である。[1]このモデルはマヨラナフェルミオンを用いて記述することでその厳密解が得られ、スピン液体状態を実現することが示されている。このスピン液体に磁場を印加することによって系はカイラル・スピン液体状態になる。このカイラル・マヨラナフェルミオンの存在証拠として量子熱ホール効果の観測があげられる。さらに近年の実験によって α - RuCl3においてこの熱ホール効果の観測が報告された。[2]しかし、カイラル・マヨラナ粒子の存在を確立するためには理論・実験のさらなる研究が必要である。

そこで本研究ではマヨラナフェルミオンの存在を示す決定的な証拠としてキタエフモデルのスピンゼーベック効果によるスピン伝導率が示す普遍的なスケーリングを提案する。キタエフ・カイラル・スピン液体ではバルクでは格子定数程度のきわめて短いスピン相関長しかないにもかかわらず、温度勾配によってエッジに無散逸のスピン流が流れ、スピンゼーベック効果が現れることが分かった。さらにこのスピンゼーベック効果によるスピン伝導率の温度依存性がマヨラナ粒子固有の特徴的振る舞いを示すことが明らかになった。この温度依存性の定性的振る舞いはフォノンなど他の自由度からの擾乱の影響を受けないと期待でき、より正確かつ一般的なマヨラナフェルミオンの存在証拠になる。

また、今回発見されたカイラルエッジ状態に由来する後方散乱のない弾道的なスピン伝導はスピン液体の基礎研究をスピントロニクスへの応用へと切り開く可能性がある。

[1] Alexei Kitaev, Annals of Phys. 321 (2006) 2-111

[2] Y.Kasahara, T.Ohnishi et al., Nature 559, 227-231 (2018)

[3] D.Takikawa, M. G. Yamada, and S.Fujimoto arXiv:2104.11115(2021)


<5/2021>
Date
5月14日(金) 13:30-
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Speaker
小林 伸吾(理化学研究所 創発物性科学研究センター)
Title
トポロジカル超伝導におけるマヨラナ多極子応答

トポロジカル超伝導体は非自明なトポロジカル不変量を持つ超伝導体であり、超伝導体表面にゼロエネルギーアンドレーエフ束縛状態(マヨラナ準粒子)が現れる。マヨラナ準粒子はトポロジカル量子計算への応用が期待されており、理論と実験の双方から盛んに研究が行われている。

時間反転対称なトポロジカル超伝導体の場合、ヘリカルマヨラナ準粒子が表面に現れる。ヘリカルマヨラナ準粒子は時間反転対称性により保護されているため、時間反転対称性を破る摂動(例えば、外部磁場など)に対して不安定である。しかし、時間反転対称性に加えて結晶対称性がヘリカルマヨラナ準粒子を保護しているとき、磁場に対する応答は異方的となる[1]。異方性はある特定方向の応答として現れ、超流動3He B相やドープしたトポロジカル絶縁体など多くの時間反転対称なトポロジカル超伝導体で起こる[2,3,4]。近年、我々は異方的磁気応答をトポロジカル結晶超伝導体の場合へ拡張し系統的な探索を行っている[5,6,7,8]。

本発表では、ヘリカルマヨラナ準粒子の磁気構造の分類より異方的磁気応答を系統的に理解できることを示す。我々は磁気構造の理論としてヘリカルマヨラナ準粒子の多極子理論を構築した。この理論より、我々は磁気構造に関する2つの一般的性質を明らかにした。一つ目は、磁気構造の対称性とクーパー対の対称性の間に一対一対応があることである。よって、マヨラナ準粒子の磁気応答より、クーパー対対称性を推定可能である。2つ目は、マヨラナ準粒子の磁気構造は2つのクラスに分類されることである。あるクラスは磁気双極子を持ち、あるクラスは磁気八極子を持つ。磁気八極子は、\(J=3/2\)トポロジカル超伝導体や非共型対称性に保護されたトポロジカル超伝導体など特殊なトポロジカル超伝導体で発現する。それ以外は全て磁気双極子を持つ。また、最近我々は多極子理論を電気応答の場合へ拡張した[9]。電気応答はひずみに対するマヨラナ準粒子の応答に対応する。

[1] M. Sato and S. Fujimoto, Phys. Rev. B 79, 094504 (2009).

[2] S. B. Chung and S.-C. Zhang, Phys. Rev. Lett. 103, 235301 (2009); T. Mizushima, et al., ibid. 109, 165301 (2012).

[3] K. Shiozaki and M. Sato, Phys. Rev. B 90, 165114 (2014).

[4] Y. Xiong, A. Yamakage, S. Kobayashi, M. Sato, and Y. Tanaka, Crystals 7, 58 (2017).

[5] S. Kobayashi, A. Yamakage, Y. Tanaka, and M. Sato, Phys. Rev. Lett. 123, 097002 (2019).

[6] Y. Yamazaki, S. Kobayashi, and A. Yamakage, J. Phys. Soc. Jpn 89, 043703 (2020).

[7] Y. Yamazaki, S. Kobayashi, and A. Yamakage, Phys. Rev. B 103, 094508 (2021).

[8] S. Kobayashi, Y. Yamazaki, and A. Yamakage, M. Sato, arXiv:2011.06770.

[9] Y. Yamazaki, S. Kobayashi, and A. Yamakage, arXiv:2103.14398.


<4/2021>
Date
4月26日(月) 13:30-
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Speaker
小野 清志郎(東京大学工学系研究科物理工学専攻)
Title
対称性の表現に基づく非従来型超伝導体の系統的解析法

マヨラナ粒子のプラットフォームであるトポロジカル超伝導体は, 今なお精力的に研究されている. 超伝導体のトポロジーを研究するもう1つの意義は, トポロジーと超伝導相の性質に密接な関係があることだ.例えば, 安定な超伝導ノード構造はトポロジーによって系統的に理解される[1].

ここ数年の間に, 結晶対称性とトポロジーの研究は急速に進展した. トポロジカル物質探索では, これまでトポロジカル不変量をブロッホ関数の空間反転対称性の固有値で計算できるFu-Kane公式[2]が, その簡便さから重宝されていた. 近年その一般化として, 結晶対称性の既約表現からトポロジカル相を判定する対称性指標[3]が提案された. さらに, この理論を密度汎関数計算と組み合わせたトポロジカル(結晶)絶縁体探索が行われ, トポロジカル(結晶)絶縁体・半金属データベースが提案された[4].

最近の研究により, 超伝導体の対称性指標においては, Pfaffian不変量がしばしば重要な役割を果たすことが明らかになった[5,6]. しかし, Pfaffian不変量は0または1に値を取る$\mathbb{Z}_2$量であるため, 従来の定式化では系統的に計算することが困難であった. 実際これまでは, 20,000を超える超伝導体の対称性クラスのうち, ごくわずかに対してのみ個別に計算されていた[6].

そこで我々は, 数学的に等価な補助問題を導入することで, Pfaffian不変量を含めて対称性指標を系統的に計算できるように定式化し, 磁気空間群の1次元表現に属する秩序変数を持つ超伝導体全てに対して対称性指標を計算した[7].

本セミナーでは,まず対称性指標のエッセンスを絶縁体の場合をレビューすることで紹介したい. 次に, どの部分が変更を受けるかに焦点をあてて, 超伝導体の場合を説明する. 時間があれば, 対称性指標の考えに基づいた超伝導ノードの分類[1]や物質への応用法を紹介する.

[1] 例えば,S. Ono and K. Shiozaki, arXiv:2102.07676.

[2] L. Fu and C. L. Kane, Phys. Rev. B. 76, 045302 (2007).

[3] H. C. Po, A. Vishwanath, and H. Watanabe, Nat. Commun. 8, 50 (2017). (See also B. Bradlyn et al., Nature, 566, 298-305 (2017))

[4] T. Zhang,et al., Nature, 566, 475-479 (2019)., M. G. Vergoniry,et al., Nature, 566, 480-485 (2019)., F. Tang,et al., Nature, 566, 486-489 (2019).

[5] K. Shiozaki, arXiv:1907. 13632.

[6] M. Geier, et al., Phys. Rev. B 101, 245128 (2020).

[7] S. Ono, H. C. Po, and K. Shiozaki, arXiv:2008.05499.