Abstract

スピン1/2ハバード模型は最も簡単化された模型として広く理論研究が行われてきた。この模型の厳密な固有状態として、η-ペアリング状態が知られている。この状態は基底状態ではないものの、2粒子の非対角長距離秩序をもつことから、超伝導・超流動の実現可能性に関連して議論されている。

現在、N (> 2) 成分の自由度をもつSU(N)対称性をもつフェルミオン系が冷却原子系の場を利用して実現されている。このような系はSU(N)ハバード模型によって記述される。ここで自然な疑問として、η-ペアリング状態のSU(N)ハバード模型への一般化が考えられる。

我々は、1次元冷却原子系でN成分フェルミオン系についてη-ペアリング状態の一般化を考え、この状態は拡張されたSU(N)ハバード模型の厳密な固有状態であることを示した。またこの状態は、N成分粒子（粒）の場合にはバルク（エッジ）にN粒子の非対角長距離秩序をもつことを明らかにした。さらに、ハミルトニアンに新たな項を加えることでこの状態のみが基底状態になるような模型を構築した。

Abstract

連続時間量子モンテカルロ法のハミルトニアンの固有値と固有ベクトルを厳密に求めることが出来る強力な数値計算法である。

しかしこの手法では系のサイズに従って指数関数的に増大する自由度を扱うことになるため、あまり大きな有限系を扱うことが出来ないという大きな欠点がある。例えばS=1/2量子スピン系では最新の大型計算機の能力を最大限に活用したとしても高々40~50サイト程度の系でしか計算が実行出来ない。そこで最近我々がS=1/2 XXZ型スピン模型用に開発した連続時間量子ソルバー-Quantum spin solver near saturation (QS3)- では系の並進対称性やU(1)対称性を用いてハミルトニアン行列を分解するなどの工夫をすることで、磁化の飽和近傍に限定されるものの数百サイト以上の系を扱うことが可能となった。本Seminarではこの量子スピンソルバーQS3の仕組みやベンチマーク結果などを紹介できればと思う。また我々は最近このQS3を用いてスピンネマティック状態の研究を行なっている。スピンネマティック状態はベクトル的な秩序をもたないがスピン空間の回転対称性が破れた状態であり、例えばリング交換相互作用をもつ正方格子模型での実現が期待されているものの、先行研究では36サイトまでの厳密対角化計算しか行われておらず、スピンネマティック状態の実現可能性には議論の余地が残されていた。我々はQS3を用いることで100サイト以上の有限系を容易に取り扱い、更に量子スピンネマティック状態の実現を確認することに成功した。講演では共同研究者にDMRG法による数値計算結果との比較やQS3での計算結果の詳細も話す予定である。

Abstract

キタエフ模型は蜂の巣格子各サイトに局在したスピンに対して異なるボンド方向に対応した異方的かつ相補的な相互作用をもつスピン系である。この模型はマヨラナフェルミオンを用いて記述することでその基底状態を明らかにし、スピン液体状態を実現することが示されている。このスピン液体に磁場を印加することによって系はカイラル・スピン液体状態になる。このカイラル・マヨラナフェルミオンの存在証拠として量子異常ホール効果の観測が提案された。さらに近年の実験によって α - RuCl3においてその熱ホール効果の観測が報告された。しかし、カイラル・マヨラナ粒子の存在を確実なものとするためには理論・実験の両面からなる研究が必要である。

そこで本講演では理論的観測手段の候補としてキタエフ模型のスピンゼーベック効果について議論する。特に限定的スケーリング理論を用いて議論を行う。キタエフ・カイラル・スピン液体ではバルクでは格子定数程度の極めて短いスピン相関しか持たないにもかかわらず、温度勾配によってエッジに無散逸のスピン流が生成し、スピンゼーベック効果が現れることが明らかになった。さらにこのスピンゼーベック効果によるスピン蓄積の温度依存性がマヨラナ粒子特有の特徴的振る舞いを示すことも明らかになった。この温度依存性の特徴的振る舞いはフォノンなど他の自由度からの影響を受けないと期待でき、高精度かつ一般的なマヨラナフェルミオンの存在証拠になる。

また、最近発見されたカイラルエッジ状態に由来する散逸のない熱的なスピン蓄積はスピン液体の基本的性質をスピントロニクスへの応用へと切り開く可能性がある。

Abstract

トポロジカル超伝導体は非自明なトポロジカル不変量をもつ超伝導体であり、超伝導体の表面にゼロエネルギーアンドレーエフ束縛状態（マヨラナ粒子）が現れる。マヨラナ粒子はトポロジカル量子計算への応用が期待されており、理論と実験の双方から精力的に研究が行われている。

時間反転対称なトポロジカル超伝導体の場合、ヘリカルマヨラナ粒子が表面に現れる。ヘリカルマヨラナ粒子は時間反転対称性によって保護されているため、時間反転対称性を破る摂動（例えば、磁場など）に対して不安定である。しかし、時間反転対称性に加えて結晶対称性もヘリカルマヨラナ粒子を保護しているとき、それに対する応答は異常となる。磁場応答はあらゆる方向の磁場に対して現れ、これは3He B相やドープしたトポロジカル絶縁体など多数の時間反転対称なトポロジカル超伝導体で起こる。近年、我々は異常な磁場応答をトポロジカル超伝導体の場合へ拡張し系統的な探索を行っている。

本講演では、ヘリカルマヨラナ粒子の磁気双極子の分類が異常な磁場応答を系統的に理解できることを示す。我々は磁気双極子の理論としてヘリカルマヨラナ粒子の多極子理論を構築した。この理論から、我々は磁気双極子に関する2つの一般的な結果を明らかにした。1つ目は、磁気双極子の対称性とクーパー対対称性の間に一対一対応が存在することである。よって、マヨラナ粒子の磁気応答から、クーパー対対称性を推定可能である。2つ目は、マヨラナ粒子の磁気双極子は2つのクラスに分類されることである。片方のクラスは磁気渦に寄与し、もう片方のクラスは磁気流に寄与する。磁気流に寄与、J=3/2トポロジカル超伝導体を非共型対称性に保護されたトポロジカル超伝導体など特殊なトポロジカル超伝導体で発現する。それ以外は全て磁気渦に寄与する。また、最近我々は多極子理論を電気双極子の場合へ拡張した。電気双極子はひずみに対するマヨラナ粒子の応答に対応する。

Abstract

マヨラナ粒子のプラットフォームであるトポロジカル超伝導体は, 未だ物質的に限定されている. 超伝導体のトポロジーを決定する一つの重要な要素は, トポロジーと超伝導秩序の対称性に密接な関係があること. 例えば, 熱的なマヨラナ量子異常は対称性に基づいて一般的に理解される。

ここ数年の間に, 結晶対称性とトポロジーの研究は急速に進展した. トポロジカル物質探索では, これまでトポロジカル不変量をブロッホ関数の空間反転対称性の固有値で計算できるFu-Kane公式が, その簡便さゆえ重宝されている. 近年その一般化として, 結晶対称性の既約表現からトポロジカル相を判定する対称性指標が示された. さらに, この理論を密度汎関数計算と組み合わせトポロジカル(半)Fri属候補物質探索が行われ, トポロジカル(半)金属材料データベースが作られた。

最近の研究により, 超伝導体の対称性指標についても, Pfaffian不変量が鍵となる重要な役割を果たすことが明らかになった。ただし, Pfaffian不変量は0または1に値をとるZ2量であるため, 従来の定式化では系統的に計算することが困難であった. 実際これまでは, 20,000を超える超伝導体の対称性クラスのうち, ごくわずかに対してのみ結果が計算されていた。

そこで我々は, 群論的に等価な補助場を導入することで, Pfaffian不変量を含めて対称性指標を系統的に計算できるように定式化し, 磁気空間群の1次元表現に対応する拡張既約な超伝導体全てに対して対称性指標を計算した。

本Seminarでは,まず対称性指標のエッセンスを半Fri属の場合から比較することで紹介する. 次に, どの部分が変更を受けるかに焦点を当てて, 超伝導体の場合を解説する. 時間があれば, 対称性指標の考え方に基づいた超伝導ノードの分類や物質への応用例も紹介。